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キム・デレと珍島のアンサンブル / 巫楽〜珍島シッキムクッ

韓半島を地図で眺めると、それが非常に細長いことを再発見する。特にその南端部は黄海に突き出た巨大な島のようなものである。「珍島」というこの半島の南西端にある、小さな不思議な島(現在は橋でつながっている)の音楽に接するとき、それが周辺地域の文化の記憶を漂わせながら、かつそれらの混ぜ合わせということでは説明のつかない、おそろしくユニークなものであることへの驚嘆の念を禁ずることができない。特にこの島の巫堂(シャーマン)の行なう「シッキムクッ」と呼ばれる儀式とそれに伴う音楽、つまりここに収録された音に関しては。 
打楽器とリズム・アンサンブルを極度に発展させた現在の東海岸のシャーマンに対して、ここに聴かれるそれは、チャンゴ、プクの打楽器にアジェン、ヘーグムなどの弦楽器、テーグム、ピリの管楽器、そして儀式の要である巫歌の4者が一体となった、シンフォニックなものである。シンフォニックといっても、単純な音の和合、刹那的なハーモニーの快楽とは対極にある、むしろ拷問に近いものだ。金大禮の歪んだヴォイス、それを追いかけるテーグム、ピリの飛翔とゆらぎ、容赦のない打楽器の責めたて…。歴史的には中国伝来および、その改良型の楽器を用いながら、その原型にはほとんどみられない、過度のダイナミクス(強度だけではなく、音程さらには時間的空間的な意味においても)が強調され、奏者個々のタイム感覚を収斂する、サウンド全体がさらに大きな弧を描くかのごときアンサンプル…それは、厳密にはハーモニーではなく主旋律の時間軸的重なりである、というような無理矢理な西欧流の解釈をすることすら受けつけない、絶対的なユニークさ。これをオーネット・コールマンのハーモロディクスと結びつけて説明を「試みる」こと自体は可能だし、それは大きなヒントにはなるかもしれない。しかし、彼らは自分たちの音楽を、理論として学んだわけでもなければ、既成の音楽を打破・改革しようと意識して作り上げてきたのでもなく、自分たちの父祖の音楽をひたすらに自らのパーソナリティに重ねあわせて表現してきた、これはいわば本能的な意識の奔流としての音なのである。しかし、それだけにこの絶対的なハヤン=白(無であり無限である)の音楽は、聴く者のそれまでの音楽体験というフィルターを通すことによって、さまざまに共鳴し、きしみ、奇妙な不安をもたらすことだろう。この音楽は、手垢にまみれた現代の音楽への、処方済みの解毒剤・精神安定剤ではない。 
「シッキムクッ」=死者の魂を洗い浄める儀式の音楽は、決して天上的な調和の世界ではなく、現世(うつしよ)にさまよう人間にとって、直に向き合うのが一瞬はばかられるほどときに苛烈なものである。それが半島の端の地域に存在することは、非常に興味ぶかい。韓半島は、日本という東海に浮かぶ島国にとって、大陸文化との「橋」と考えられてきた時代があった。しかし、大韓民國の文化に接しはじめるにしたがって、その橋を渡らず、もうひとつの「ふきだまり」としての韓半島で年月をかけて醸成されたものがあまりにも多いことに気づく。そしてそれらは、これまで目の粗い「ふるい」をかけたあとの大陸文化しか知らなかった者にとっては、おそろしく異質で、ユニークで、そして魅力的であることがようやく知られはじめた。ここに収められた音(そして儀式)は、そのなかでも破格のエクストラクトであり、後頭部への不意打ちであり、そしてこの鞭打ちの強烈な後遺症は簡単には消えそうにもない。おそらくこうした音たちに向き合い続けることによってしか回復不能であろう。そしてその過程こそが、われわれ自身の魂のリハビリテーションとなるのである。


  • Kim DaeRye
    (vocal on all tracks/main on 1.3.6.)
  • Lee WanSoon
    (vocal on all tracks/main on 2.4.5.)
  • Chae GyeMan
    (ajaeng on all tracks)
  • Kim GiBong
    (piri, jing on all tracks)
  • Kang JoonSub
    (buk, voice on all tracks)
  • Park ByungWon
    (janggo, voice on all tracks)
  • Kim BangHyun
    (daegeum on all tracks)
  • 01. Cho-hon-ji-ak (16'22")
    - Korean Traditional
    02. Son-nim-Kus (08'19")
    - Korean Traditional
    03. Je-seok-Kus (11'51")
    - Korean Traditional
    04. Hon-ssis-kim-Kus/Go-pul-i (07'50")
    - Korean Traditional
    05. Gil-dagg-eum (10'09")
    - Korean Traditional
    06. Jong-cheon (13'37")
    - Korean Traditional
    * kus = kut
    Total:68'11"
     


  • Recorded at Jindo Hall, Jindo Island, Korea, June 1992
  • Mastered at Tokyu Fun, Shibuya Tokyo Japan
  • Produced by Sohn Ah Sun(Sound Space) and Shimizu Ichiro (Sound Space)
  • Engineered by Uetsuki Takashi(Delta Studio)
  • Mastered by Ueda Keiko(Tokyu Fun)
  • Cover Illustration: Korean old falk picture
  • Title Illustration by Song Yoon
  • Photo by Shimizu Ichiro(Sound Space)
  • Designed by Kim Yoon Ai(Samsung)
  • Notes in Korean by Sound Space
  • Notes in English/Japanese by Miyakoshi Hiroki
  • Release Date was September 1994 (9407-G516)
  • Manufactured by SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
  • 商品コード : SCO-043-CSS
    製造元 : [1994/12/-]SOUNDSPACE/SAMSUNG/E&E
    価格 : 2,800円(税込)
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